2013.9.2
例によって講義の後の参加者の意見交換。そして福祉分野で社会的企業が、持続的な経営を行うためのヒントがいくつか見えてきました。
中島: 介護保険制度の中で提供されるフォーマルなサービスは、企業が参入できることを前提として設計されています。しかし事業の経済性を追求すれば、制度からもれた人たちを、サービスの対象から外さざるを得ないということが起きます。いっぽう受け皿のない人たちを集めるほど事業性がなくなり、経営は非常に厳しくなる。
制度からもれた人たちの受け皿をどうするか。
ひとつは制度のなか事業がまわっているところが、インフォーマルなサービスを提供できれば理想的です。
しかし現状では…
大きな資本が参入すると、地域の小企業は太刀打ちできなくなり事業から撤退。そして採算がとれなくなれば大資本も地域から撤退して、課題を抱えた人の拠り所が無くなるという心配があります。
こうした地域の砂漠化問題はどうすればいいのでしょう。また地域で社会性のある小企業を行政が支援する政策はないのでしょうか。
筒井: 私は制度にのっとったフォーマルな地域作業所を運営しています。他社を見ると、インフォーマルなサービスを手がけるだけの基盤はあると思いますが、実際には無理というところが多いですね。
施設の利用対象者は法律で定められていますから、その対象とならない人に来てもらっても、お金にはなりません。でも受け入れ先がなければ、受け入れざるを得ないし、私はできる限り受け入れをする考えで運営しています。
ピープルズスーパーマーケットの例を見て感じたのは、当所にもボランティアをしたいという方が来られますが、利用者は精神的な課題を抱える方なので、責任を考えると受け入れが難しい。またボランティアさんに満足してもらうことも難しい。自分は対極にいると感じました。
制度のなかできちんと事業がまわっているところが、インフォーマルな領域を社会的責任としてやらないといけないと思います。
中島:
社会的な役割を果たすには、経済性を追求しなければならない。そうすると利用者を選別しなければいけないというトレードオフですね。
筒井: 例えばこんな話があります。日系ブラジル人の人から「寮付きの職場を解雇になった。住むところがない」という相談がありました。いまの制度で受け入れるところがありません。
最終的に住居を持っているNPO法人に受け入れてもらいました。話してみると、知的障害があるようで、いま介護の仕事を手伝ってもらい、住まいと食事を提供しているそうですが、今後、どうやって支援していけるか解決策が見えません。
中島: 私は埼玉の田舎で育ちましたが、昔は障害を持つ人も、商店街で働く場を提供して、地域の支援できちんと地域で生活できていたように思います。それを制度で受け入れようとすると細かな制度をいっぱい作らないといけないので、それは絶対無理でしょう。インフォーマルな部分も、昔はなんらかの形で吸収できていました。
採算事業と不採算事業の組み合わせということで言うと、山間部で買い物困難地域では、都市のバイイングパワーで安く仕入れ、山間部に移動販売に行くという事例もあります。
介護事業をやっているところは、融資を受けやすいので、それでインフォーマルな部分のソーシャルビジネスに広げられないものでしょうか。
社会的企業は困難者を切り離せない。経営的にマイナスに見えるところをプラスに変えるアイデアが必要です。
中島: ピープルズマーケットでは会員が経営の意思決定に参加してもらっていますが、これは有利な資金調達の方法として、会員の合意形成の手続きを行っています。
どういうことかと言うと。
一部の人の意志決定では、それに賛同する人しか参加しません。しかし全員が合意形成に参加していれば、それだけ多くの資源を得られるメリットがあります。
結果はどうあれ、「多様な人が組織に関わる手続き」が重要です。
支援する側とサービスを受けられるという関係は一過性になりがちで、継続的な視点からすると危ういと思います。
消費者は消費者以上ではなく、常に新しい顧客を獲得する努力をしなければなりません。経営規模がある一定以上にならず、大きな資本と競争することになると一瞬でなくなってしまう。
今村:
ピープルズスーパーマーケットの例で言えば、お店やさんごっこができるという、わかりやすい楽しさが、人が集まる魅力になっているように思いますね。
原:
大磯の場合は、地域の中で完結していることが多いので、商店主と買い手の関係が曖昧です。
中島:
地域だと、消費者、経営者という関係が明確でないですね。
生協は会員100万人とか規模の拡大をめざしていますが、福祉の場合はそもそもサービスを受ける人は地域にしかいないわけで、規模の拡大をめざしてもしかたがない。そういうところから社会的企業の存在価値を考えたら、可能性を見られるではないでしょうか。
コミュニティーカフェの例がいいかもしれません。地域社会には貢献する志は素晴らしいのですが、経営は厳しい。ところが阿佐ヶ谷に、介護福祉に携わるケアをするひとたちをケアするコミュニティーカフェがあって、遠方からわざわざ来る人がいます。
地域にはおのずと規模の限界があるのですが、阿佐ヶ谷のように同じ課題を共有できるコミュニティーカフェは、必要な遠方から人が来るので経営が成り立つということにもなります。
原: 社会的企業がネットワークするとおもしろいですよね。筒井さんの地域作業所で木工をやっていれば幼児用の椅子を少し安くして作ってもらえば、大磯市でうれるし、自分なら鯖を出しましょう、みたいに。他の地域でも小さな企業がつながっていけば課題も乗り越えられるのではないでしょうか。
中島:
原さんに聞きたいのですが、幼児用のイスを筒井さんから仕入れたいというとき、安いからだけではないですよね。
一般的な企業は仕入れたもの代金を払う、あるいは働いてもらった分の報酬を払うという、一対一の関係で成り立っています。ところが社会的企業はそうじゃない。労働や商品の対価+αがあって、一対一でないケースが多いですね。
これは私の解釈ですが。
イギリス人エシカル好きなので ラッシュとかボディショップといった企業のブランドに対してプレミアを払い、継続的な関係を作っています。
※ラッシュについて http://www.lushjapan.com/aboutlush/
※ボディショップ 私たちのバリューズ http://www.the-body-shop.co.jp/values/
100%オーガニックといっても嘘かも知れません。買う側は検査しようがないのですが、企業の言葉を信頼して買い、自分がオーガニックを使っているという満足を得ます。
どういうことかと言うと、
社会的企業が消費者、サービス利用者と継続的な関係を結ぶためには、信頼が必要。信頼とか社会的企業は市場の価値だけでないところに資源を持っていれば、勝負もできる。やはりその源泉は社会的活動であり、ミッションに根ざしたものがブランド力になると言えるでしょう。
原:
水産加工を事業としてやっていると、ほかの企業と真っ向勝負しなければいけませんが、大磯の町興しとか社会的な事業もやっていることで、新聞が取り上げてくれます。社会性を身にまとわないといけないですよね。
中島:
仮に株式会社で利益を追求しても、それを地域に使うということが見えていることが重要だし、支援的な消費もあるわけで、品質の差がなければこっちを選ぶという戦略もあるでしょう。
社会的企業として事業運営したほうが、自分たちのやりたいことができるのなら、それもありではないでしょうか。