2013.8.25
中島先生の講義のあと、参加者からの質問、意見交換が行われました。
三井: 実際にビジネスを立ち上げるときを見ると、組織のあり方や意思決定の仕方、無償のボランティア資源や寄付金の活用はどうするかという運営形態の話が優先され、社会的意義や事業のミッションが二の次になることが多いような気がします。本当はミッションを理解してもらうことが優先だと思うのですが?
中島: 社会的企業のあるべき姿を議論することは、個人的にはナンセンスと思います。事業がうまくいく方法を選択すればいい。これまで見てきたなかで、うまくいっている事例に共通しているのは、ミッションや理念がしっかりしていることです。理念がしっかりしているからこそ、組織の意思決定がうまく行くと考えています。
いっぽうで民主的な意思決定が上手くないNPOも多いようです。その場合は、ある種、カリスマ的なリーダーの意思決定があり、そこに人を巻き込む方がうまくいく場合もあります。
どちらの形態がいいのかという議論より、事業や団体運営にどう経営的なプラスがあるかを考えることが重要ですね。
少し話はそれますが、NPOにとって「制度化」はネガティブにとらえがちです。介護保険事業を受託したNPO法人を例でお話しましょう。
介護保険制度では提供できるサービスメニューが決められています。そもそも介護保険制度は、最大公約数を満たすよう作られているので、当然、地域の住民のニーズと食い違いが生じます。
NPO法人が介護保険制度で決められたサービスを提供し始めると、「昔はもっといろいろなことをしてくれたのに」という不満の声が出てきます。
でも「制度化」自体は悪いことではないのです。
制度というのは企業でも運営できるよう設計されるので、剰余金が出ます。その資金で制度がフォローできない支え合い的なサービスを提供できると考えてはどうでしょう。
つまり、「組織や制度のあり方を議論」することが大事なのではなく、経営にどうメリットがあるのかを見なければいけないということです。
三井: 先生は、市場の原理に従う企業に対立する存在として、社会的企業を意識されているようですが、例えば、地域密着の家族経営に近い零細企業の場合。零細企業は地域を離れらません。採算がとれないと別の地域に移転してしまう大企業とは違いますよね。これをひとくくりにして議論していいのでしょうか。
さらに巨大企業でさえ、いまでは市場の原理だけでは行動出来ず、社会的責任という規律を受けます。企業か社会的企業か二者択一論でとらえていいのかどうか、疑問に思います。
中島: 大企業は、コーズリレイテッドマーケティングのように、マーケティングの一環が社会性を帯びることはあるでしょう。でも私は当てにしていません(笑)。
大企業は、最初、地域の雇用を創出すると言いつつ、採算が合わなくなると撤退する。ナイキとか、安い労働力を求めて移転していきます。基本的に社会性はないと思っていいでしょう。
いっぽうスリランカに、象の糞で紙を製造する小さな会社があるのですが、彼らは象の保護と地域の雇用を守る事業を行っていて、彼らは採算がとれないといって他の地域に逃げることはできません。
ですから持続的に地域の雇用を生み出す社会性を持っています。この場合は、社会的企業と呼んでいいと思います。
関山: 私が行っている保育事業でも大手資本が参入し、私たちはどうやって大手資本に負けず経営の持続可能性を持てばいいか考えていますが、ミッションが重要だと感じています。
前職はパタゴニアに勤務していましたが、あの会社は自分たちの製品が、なるべく環境にインパクトを与えないことを重視していて、製品を通じて、環境を大切にする啓発を行うことをミッションにしています。
※パタゴニア:環境保護への行動:環境的および社会的責任 http://www.patagonia.com/jp/environmentalism
いまでは大企業になりつつありますが、社会的企業との共通点があるように思えます。
こうした経験から保育事業を始めるとき、地域の資源(環境)を活かすことにしました。私の保育園は園庭がなくて、地域の緑の中で保育をしています。
これは、ほかの地域ではあまりされていない保育の視点で、福祉人材の育成には、地域の資源を見る目を養うことが重要ではないでしょうか。
環境教育を例にお話しますと、沖縄で環境教育をやられている方の出身は、ほとんど大阪、東京といった地域外の人です。地元で生まれ育った方は、地域のことを外から見る機会が少なく、外からの視点があることで、その地域の価値がよくわかります。
そこに起業のチャンスがあるのではないでしょうか?
中島:
同じものを見ても価値を見いだすか、そうでないかは、ありますよね。
起業家にとって大切な視点だと思います。
今村: ドラマチックという合同会社を設立して、東京都の台東区内で活動しているクリエイターさんなどモノつくりに関わる人を支援している会社を経営しています。
いま台東区からの補助も受けて事業を行っていますが、当社で支援しているクリエイターさんの商品を扱っている店舗や企業さんに出資してもらい、当社の活動が地域に密接に関わっていただけるともっと支援できるなと思っています。
※まちづくり会社ドラマチック http://www.drmt.info
中島:
つまり社会的所有という概念を入れることで、もっと大きな支援ができるということですね
ところで、なぜ合同会社を選んだのですか?
今村: 合同会社は資金が少なくても設立できるからですね。NPOではなく会社にしたのは、ビジネスをしながら社会的な貢献もしていることを主張したかったからです。
ひとつアイデアがあって、将来は社会的な事業をやっている会社のポートフォリオができるといいと思っているのですが、どうでしょうか。
中島:
ポートフォリオ、複合的な運営形態という発想は面白いですね。儲かる会社、そうでない会社がありますから、ポートフォリオを組むことで帳尻があうということですね。
治田:
社会的企業、ソーシャルビジネスに関わる政策が曖昧になっているなか、自治体がどう関わるべきでしょうか。
中島: いまの時代、自由競争の市場に行政が介入することは受け入れられないでしょう。しかし市場性のないものを、市場で競争できるように支援するという考え方はあると思います。
イギリスは市場至上主義ですが、スタートラインに一緒に立てるよう行政が支援するという考え方をしています。スタートしたら自由競争というわけです。
それぞれの立場からの質問が出た後、お互いの意見交換が始まりました。
原:
私は大磯でまちづくり会社もNPOもやっていますが、それぞれ全部、地域課題を解決することが目的です。漁業も農業も商店もまだ切羽詰まっているわけではありませんが、地域に市場がないから、確実に砂漠化が進行しています。
だから社会的企業という形をとらざるを得ません。今の活動は地域のボランティアさんなしでは成り立たない部分もあります。
水産加工もやっていますが、いくら地元産と言っても旨くなければ売れません。地域を応援するから買うこともあるでしょうが、原則として市場原理で動きます。
市場原理の中で受け入れられる商材を作ることは大前提なのですが、そうは言っても活動の存在意義を地域の人に理解してもらわなければ存続できないので、「大磯をこういう街にしたい」というビジョンを描かないとだめ。
それには地域のプレーヤーを巻き込んで行く必要があります。東京スタイル、これまでの地域活性の王道モデルでやっても、その箱やイベントが社会的所有になっていないもの、いかないものが多いのです。
つまり。東京の人たちが来て、地域と関係のないところで「地域の活性化」と言ってやっている。話題になって人は来るかもしれないのですが、実は地元の人たちが求めているものは、違うところにあるのですね。
三井: ヨーロッパは市民社会で、地方自治は地域の住民達が自分達でお金出し合って、地域を作ってきた歴史があります。ところが日本は近代、国が中央集権的に地域を作ってきたので、地域社会のスタートがヨーロッパと日本では、まったく違います。
地域における社会的企業とは何かをとらえ直すこと自体が、意義あることではないでしょうか。社会的企業は本当の地方自治をつくりあげる可能性を持っているように思います。
原:
大磯町の人口は3万人で、横のつながりが強いので、一緒になれば出来るのではないかと思います。
関山: 私が保育事業をやっている横浜市都筑区はベッドタウンで、大磯町と違って、街に帰属意識がないニュータウンです。住民の関係性が衰弱している場所なのですが、自分達の行動で変化は起こせると思います。
都筑区は大手資本がどんどん参入しています。でもそれらが無くなったときどうするの? ということを住んでいる人が考えていないことに危機感を持っています。それを発信することが私達の活動の目的でもあり、そこに社会的意義があると考えています。
藤倉:
私は地域という言葉に違和感を感じていて、ウィキペディアのような、地域に関係ない活動もありますよね。何が言いたいかと言うと、地域という特区ではなく、目的を共有したテーマ型の特区があっても良いのではと思っています。
中島:
イギリスで、コミュニティ=地域社会ではなく、同じ課題を共有していれば、コミュニティと言います。ですから、コミュニティを地域と訳すことは間違いですね。
もし違いを指摘するとすれば、地域社会のコミュニティは内向きの社会で、知っている人だから信頼できる。テーマ型のコミュニティは、外向きでオープンですということでしょうか。
内向きのコミュニティはどこかに限界がある。だから外向きのテーマで、広がって行くスタイルもありえます。
藤倉:
課題はなくならないなら、仕組みさえあれば組織にこだわらなくてもいいのではないでしょうか。
中島:
事業体(エンタープライズ)は、法人ではない。社会的企業は事業体と考えています。
企業(法人)はミッションや利益がなくなれば、受益者を置き去りにする。でもサービスが無くなると困る人がいる限り社会的企業は、受益者を置き去りにはできない。
三井:
運動、運動体という発想も必要ですね。事業体がなくなっても運動が無くならなければ良いのではないでしょうか。